アビリーンのパラドクス

集団心理
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アビリーンのパラドクスとは

アビリーンのパラドクス(Abilene paradox)とは、集団のメンバー全員が本当は望んでいない選択を、「みんながそう思っているはずだ」と誤解したまま進めてしまい、結果として誰も望んでいなかった選択をしてしまう現象を指します。

この概念を提唱したのは、組織論・マネジメント研究者のジェリー・B・ハーヴェイです。
彼は1980年代に、自身の家族の体験談をもとにこのパラドクスを紹介しました。

 

その有名な例が、「暑い日に家族でアビリーンへドライブに行く話」です。
アビリーンとは、テキサス州に実在する小さな田舎町のことです。

 

お父さん
お父さん

今年の家族旅行どこ行こうか?
(本当は行きたくない)

お母さん
お母さん

そうだね…アビリーンとか行く?
(行きたくないけど、毎年の行事だし…)

お兄さん
お兄さん

アビリーンか…まぁいいけど。
(みんなが行きたがってるなら、しょうがない)

お姉さん
お姉さん

じゃあ今年の家族旅行は決まりだね。
(みんな退屈そうだから、まぁいいか)


 

家族の誰一人として本心では行きたいと思っていなかったにもかかわらず、「他の人は行きたいと思っているに違いない」と互いに遠慮した結果、夏のくっそ暑い日に自宅から53マイル離れたアビリーンへ出発してしまいます。

そして、不満を抱えたままの小旅行は、結果として家族全員が消耗してしまったというエピソードです。

このパラドクスが示すのは、問題は対立ではなく、合意そのものの中に潜んでいることがあるという点です。

 

 

なぜ誰も望んでいない決定が通ってしまうのか

アビリーンのパラドクスは、単なる意思疎通のミスではありません。
いくつかの心理的・社会的要因が重なって起こります。

 

① 本音と建前のすれ違い

多くの人は、「場の空気を壊したくない」「自分だけ反対するのは気まずい」と感じます。
その結果、本音を隠し、無難な賛成や沈黙を選びます。
しかし沈黙は、時には「賛成」として解釈されてしまいます。

② 責任を個人で負いたくない心理

集団で決めたことなら、失敗しても責任が分散されます。
そのため人は、「自分が止めたせいで失敗した」という状況を避けようとします。

結果として、誰も強く望んでいない決定のほうが、むしろ通りやすくなるという逆転現象が起こります。

③ 「みんなは分かっているはず」という錯覚

アビリーンのパラドクスでは、「言わなくても伝わっているだろう」という思い込みが致命的になります。
実際には、全員が同じ誤解を抱えたまま、相手の顔色を見て判断している状態です。
そのため、話し合いが表面的にスムーズであるほど、内側ではズレが蓄積していきます。

 

 

反対意見は「悪」ではない。

アビリーンのパラドクスを知ると、「意見が対立しない決定」や「全員がすぐに賛成している状況」を、少し慎重に見られるようになります。
合意が早すぎるときほど、「本当に全員がそう思っているのか?」を確認する価値があります。

日常で実践しやすいのは、賛成か反対かをすぐに決める前に、「それぞれどう感じているか」を言葉にしてもらうことです。
結論より先に感想や違和感を共有すると、本音が表に出やすくなります。

また、自分自身が集団の一員として参加しているときは、反対意見を「空気を壊す行為」だと捉えすぎないことも重要です。
反対は、決定を邪魔するものではなく、集団のズレを知らせる情報だからです。

友人との予定や家族の決定、職場の会議など、「みんながそう言うなら…」と感じたときこそ、「自分は本当はどう思っているか」を一度立ち止まって考えてみてください。

アビリーンのパラドクスは、誰かが強引に決めた結果ではありません。
全員が遠慮し、善意で沈黙した結果として起こります。

だからこそ、「反対しても大丈夫」「本音を言っても関係は壊れない」という空気を少しずつ作ることが大切です。

合意そのものを疑い、ズレを確認すること。
それが、無駄な遠回りを防ぐ一番シンプルな方法なのです。

(参考文献)
The Abilene Paradox and other Meditations on Management, Jerry B. Harvey(1974)

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