漂流理論とは
漂流理論(ドリフト理論/Drift theory)とは、人は常に善か悪かのどちらかに固定されているのではなく、その間を「漂流」する存在であると考える社会学・犯罪学の理論です。
この理論は、1960年代に犯罪社会学者の デイビッド・マッツァ によって提唱されました。
当時主流だった「非行少年は反社会的価値観を内面化している」という見方に対し、マッツァは異なる視点を示します。
彼は、非行に走る若者であっても、基本的には社会のルールや道徳を理解しており、状況によって一時的に逸脱しているだけだと考えました。
つまり、人は「悪人になる」のではなく、一時的に道徳から離れ、また戻ってくる存在だというわけです。
漂流が起こる仕組みと考え方
漂流理論の中心となるのが、「中和の技術」(Techniques of Neutralization)という考え方です。
人は本来、ルールを破ることに罪悪感を抱きます。
しかし、その罪悪感を一時的に弱める理由づけがあると、逸脱行動に踏み出しやすくなります。
たとえば、

みんなやっているから

悪いのは相手のほうだから
こうした考えは、自分の行動を正当化し、一時的に道徳のブレーキを外す役割を果たします。
重要なのは、これらがずっと続く信念ではないという点です。
状況が変われば、人は再び…

やっぱり良くなかったな…
と感じ、元の価値観へ戻っていきます。
漂流理論は、逸脱行動を「人格の問題」ではなく、状況と心理の揺れとして捉える視点を提供しています。
漂流理論がもたらすメリット
漂流理論の最大のメリットは、人を単純にラベリングしなくて済むことです。
「一度ルールを破ったから、この人はダメだ」と決めつけてしまうと、本人が立ち直る余地を奪ってしまいます。
しかし、漂流理論の視点に立てば、逸脱は一時的なズレとして理解できます。
これは、教育や職場、家庭でも役立ちます。
ミスや問題行動を「性格」や「本質」のせいにするのではなく、「なぜその状況でそうなったのか」を考えることができるからです。
また、自分自身に対しても有効です。
失敗したときに「自分はダメな人間だ」と考える代わりに、「今は少し流されているだけだ」と捉え直すことができます。
漂流理論は、人間の不完全さを前提にしながら、戻ってこられる余地を信じる理論です。
その視点は、より柔軟で現実的な人間理解につながっていきます。



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