シロクマ実験

記憶
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シロクマ実験とは

シロクマ実験(White bear problem)とは、「考えてはいけない」と意識すればするほど、その対象が頭から離れなくなるという、人間の思考の逆説的な性質を示した有名な心理学研究です。

この現象を体系的に研究したのは、アメリカの社会心理学者 ダニエル・ウェグナー です。
彼は1980年代に、「思考抑制(thought suppression)」というテーマのもとで、
人が意識的に考えを抑え込もうとしたとき、逆にその思考が強化されてしまう仕組みを明らかにしました。

「シロクマ」という名前は、「今からシロクマのことを考えてはいけません」と言われた瞬間に、シロクマが頭に浮かんでしまう有名な例えから来ています。

 

 

「考えるな」と言われるほど浮かぶ理由


ウェグナーの研究でよく知られているのが、次のような実験です。
参加者を3つのグループに分け、シロクマの映像を見せた後、それぞれ異なる指示を出しました。

Aチームには
「シロクマのことを覚えておくようにしてください」

Bチームには
「シロクマのことを考えても考えなくてもOKです」

Cチームには
「シロクマのことを考えてはいけません」

その後、一定時間が経ったあとで、「シロクマのことをどれくらい思い出したか・記憶しているか」を測定しました。

結果はどうなったか?

直感的には、「覚えろ」と言われたAチームが一番覚えていそうと思うかもしれません。

しかし、実際に最もシロクマのことを覚えていたのはCチーム、つまり「考えてはいけない」と指示されたグループでした。

 

 

 

なぜこんな逆転が起きるのか

ウェグナーは、この現象を「皮肉過程理論(Ironic Process Theory)」で説明しました。

人が「ある考えを抑えよう」とすると、心の中では次の2つの働きが同時に起こります。

①意識的な抑制プロセス
 →「シロクマを考えないようにしよう」と努力する

②無意識的な監視プロセス
 →「今、シロクマを考えていないか?」と常にチェックする

この②の監視プロセスが、
皮肉にも「シロクマ」という情報を何度も呼び出してしまうため、
結果としてシロクマの存在感が強化されてしまうのです。

特に、疲れているとき、ストレスが強いとき、集中力が落ちているときには、この逆効果が起きやすくなります。

 

 

シロクマ実験を日常生活にどう活かすか

シロクマ実験は、実験室の話にとどまりません。
私たちの日常の悩みや失敗の多くは、この「考えるな問題」と深く結びついています。

「忘れよう」としない

失恋、後悔、恥ずかしい記憶、黒歴史、不安。
これらを「考えないようにしよう」とすると、逆に頭にこびりつきます。
大切なのは、追い払おうとしないことです。
「また浮かんできたな」と、評価せずに流す方が、結果的に思考は早く弱まります。

代わりの焦点を用意する

思考を抑える代わりに、別の対象に注意を向けるのは効果的です。
・今やっている作業に意識を戻す
・五感(音・触覚・呼吸)に集中する
・軽く体を動かす などなど。

他人への声かけに気をつける

そのため、誰かが不安そうなときに、「気にしないで」「考えすぎないで」と言うのは、実は逆効果になりがちです。
それよりも、「そう考えちゃうよね」「一緒に別のことやろうか」と、思考の存在を否定しない関わりのほうが、心は落ち着きます。

 

もし、迂闊にも思い出したくないことを思い出してしまって、「また同じことを考えてしまった」と落ち込む必要はありません。

それは意思が弱いからではなく、人間の思考システムがそうできているからです。

シロクマ実験が教えてくれるのは、人は「心を直接コントロールする」のがとても苦手だという事実です。

だからこそ、無理に消そうとするより、距離を取り、流し、別の方向へ向かう。

「考えない努力」をやめたとき、シロクマは、静かに森へ帰っていくのかもしれませんね。

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