プロテウス効果

メンタルヘルス
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プロテウス効果とは

プロテウス効果(Proteus effect)とは、ゲームなどで操作するアバターやキャラクターの外見に影響されて、行動が変化する現象のこと。正確に言うと、人間が「自分はこういう存在だ」と認識している外見や役割に引きずられて、実際の行動や性格までもが変化してしまう心理現象を指します。

この概念は、2000年代後半に、スタンフォード大学の研究者であるニック・イーとジェレミー・ベイルソンによって提唱されました。
彼らは、オンラインゲームや仮想空間(VR)におけるアバター行動を研究する中で、自身が操作するキャラクターの見た目が、プレイヤーの振る舞いそのものを変えてしまう」ことを実験的に示しました。

大きくて強力なキャラクターを選んだプレイヤー
 → ゲーム内では自信に満ちた行動を取る。

回復魔法を使うキャラクターを選んだプレイヤー
 → ゲーム内ではより献身的な行動が増加する。

プロテウス効果の重要なポイントは、他人からどう見られるか以前に、「自らが自分自身をどう見えていると思っているか」が行動に影響を与える点にあります。

つまり人は、「こういう見た目の自分なら、こう振る舞うはずだ」という自分自身が持つ期待に従って動いてしまうのです。

その期待は、必ずしも言葉として意識されているわけではありません。
多くの場合、「なんとなく、こうしたほうが自然っぽい」という感覚として現れます。

興味深いのが、これが「周囲からそう扱われたから変わった」のではないという点。

実験では、ゲーム内の他者とのやり取りが始まる前の段階から、すでに行動の差が生まれていたと報告されています。

つまりプロテウス効果は、他人の評価による自己変化ではなく、自分自身が自分に課している役割期待による変化なのです。

そしてなんと、このプロテウス効果は、オンライン世界だけでなく、現実世界でも行動の変化がみられるとした結論に至っています。

 

 

現実世界の行動にも影響を与えてしまう

プロテウス効果が、仮想空間に特有のものではなく、現実世界の行動にも影響を与えてしまうことについて、そのメカニズムを考えてみます。

人は現実世界でも、自分の内面を直接把握することが苦手で、外見や立場、役割といった「外側の情報」を手がかりにして、自分がどんな人間かを判断しています。

スーツを着ていると自然と気持ちが引き締まったり、肩書きが変わると振る舞いが変わったりするのは、その典型です。
私たちは日常的に、「今の自分はどんな役割の人間か」を外見や状況から読み取り、そのイメージに合わせて行動しているのです。

そのため、仮想空間において「自分は積極的に振る舞える存在だ」「この姿の自分なら、前に出ていい」という行動パターンが起動すると、その感覚は現実世界にも持ち越されることがあります。

プロテウス効果が現実の行動に影響を与えるのは、仮想と現実の区別が曖昧だからではありません。
もともと人間は、外見や役割によって行動するという習性を持っているということが、オンラインゲームか現実世界か関係なく、プロテウス効果が発生する仕組みなんですね。

 

 

人生を変えるのではなく、少しだけ行動を変容させる

ただし、ここで注意しておきたい点があります。
プロテウス効果は、どんな状況でも万能に働くわけではありません。

たとえば、ゲーム内では勇者として活躍していても、現実世界では無職で引きこもりの状態にある場合、その感覚がそのまま現実の行動に引き継がれることはほとんどありません。
これは現実側に行動を受け止める土台が存在しないからです。

プロテウス効果は、現実の制約や生活状況を無視して、人を別人に変えてしまう力ではありません。影響を与えるのは、「今の自分」から見て一段だけ隣にある行動までです。

たとえば、

・発言するのが怖かった人が、少し声を出せるようになる
・消極的だった人が、一度だけ前に出てみる


といった変化なら、仮想空間で得た感覚が現実にも持ち越される可能性があります。

一方で、引きこもりの状態からいきなり社会復帰する、人生を一気に立て直す、といった大きな飛躍までを支える力は、プロテウス効果にはありません。

プロテウス効果は、現実逃避のための幻想ではなく、行動のハードルをほんの少し下げるための心理的な補助輪なのです。

なお、名前の由来となっている「プロテウス」とは、ギリシャ神話に登場する、姿を自在に変える神様の名前です。

この神様でも、さすがに引きこもり無職を、勇者のように勇ましく変化させることは難しいということですね。

(参考文献)
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