身元の分かる犠牲者効果とは
身元の分かる犠牲者効果(Identifiable victim effect)とは、知らない人の危機よりも、誰だかわかっている人の危機に対して心がより強く反応する傾向のこと。
私たちは日々、世界中で起こる様々な問題や災害について耳にします。
しかし、なぜか一部の話には特に心を動かされ、行動を起こすことがあります。その理由の一つがこの身元の分かる犠牲者効果です。
この心理現象は、私たちが匿名の群衆よりも、個人の具体的な物語に強く反応することを説明します。
実際、「世の中には飢餓で苦しむ子供がいます」よりも「この貧しい国の〇〇という村のマイケル君が飢餓に苦しんでいます」と具体的な表現にすると寄付金がたくさん集まる傾向にあります。
また、対象は人に限らず「全然知らない旅館が災害に遭っている」よりも「自分が行ったことがある旅館が災害に遭っている」のほうに心が動かされてしまうといった人間の心理現象です。
困っている人の顔が思い浮かぶって大事なんだな。
思わず助けてあげたくなるよね。
心理学的なメカニズム
この効果の背後には、私たちの共感の仕組みがあります。個々の物語や顔を持つ犠牲者に対しては、より具体的かつ個人的なつながりを感じるため、私たちの感情や支援の意欲が高まります。
一方で、統計的なデータや匿名の群衆に対しては、そのような強い個人的なつながりを築くことは難しいのです。
また、大きすぎる災害の場合、第三者にはその被害状況を理解することが困難であるため、具体的な個人がどのように避難所で困っているのか、どのような生活をしているのか。身元を明らかにしたほうがその過酷な状況を理解しやすいとも言われています。
私たちにできること
この現象は、募金活動や社会運動、マーケティング戦略など、多くの場面で利用されています。
チャリティ団体は、具体的な個人の物語を共有することで、より多くの支援や寄付を集めることができます。この効果を理解することは、社会的な問題に対する効果的なアプローチを考える上で重要です。
では、私たちはこの知識をどのように活用できるでしょうか?
重要なのは、個々の物語だけでなく、大きな問題全体を理解し、それに対しても意識を高く持つことです。
身元の分かる犠牲者に感情を動かされることは自然なことですが、それだけにとらわれず、より多くの人々や広い視野にも目を向けることが大切です。
この身元の分かる犠牲者効果は、私たちがどのように感情を形成し、行動を決定するかを理解するのに役立つ重要な概念です。
この心理現象を知ることで、私たちは自分自身の反応をより良く理解し、より公平で包括的な支援を提供する方法を考えることができるようになります。
(参考文献)
情報文化研究所、高橋昌一郎「情報を正しく選択するための認知バイアス事典」フォレスト出版(2021) https://amzn.to/4bfeTXX
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