ポジティブ・デビアンスとは
ポジティブ・デビアンス(Positive deviance)とは、すでに存在する「良い逸脱」に注目する問題解決手法のこと。
プライベートにビジネスに。私たちは日々、様々な問題を抱えています。
しかし、同じ条件下・同じように問題を抱えているはずなのに、なぜだか良い結果を出している人って時々いるものです。
同じチェーン店なのに
あの店舗だけクレームが発生しない。
同じ条件下なのに
この人だけ成績がいい。
同じ町なのに
あのエリアだけ犯罪が少ない。
これらの上手く結果を出している人たちには、他の多くの人がやっていない行動(良い逸脱)があるのではないか、ならばそこをマネすることこそが問題解決の最短ルートであるとした考え方のことです。
つまり、会社で良い結果を出せていない人にとって、書籍やセミナーなどであれやこれや他のテクニックを学んだり、他社の取り組みをマネすることよりも、同じ会社で結果を出している同僚のやり方をマネたほうが上手くいくとした理論がポジティブ・デビアンスです。
確かに、同じ環境で上手くやってる人っているよね・・
同じ環境だからこそ、学びが多いはずなんだ♪
貧しいながらも、たまに健康な家族が存在する謎
貧しいベトナムで支援活動を続けていたNGO団体「セーブ・ザ・チルドレン」プロジェクトリーダーのスターニン夫妻は、多くのベトナム人を調査していくうちに、想定通り彼らの健康状態が非常に悪いことを報告書に記していました。
しかしなぜか、同じ貧困層にも関わらず、不思議なことに健康状態がとても優れている家族がごく稀に存在することに気付きました。
そして、その健康な家族の行動を調べてみると、他の人々が行っていないような行動があることが判明しました。
川や田んぼにいる誰も食べないような
小さなエビやカニを捕まえて食べていた。
1日4、5回に分けて
食事をとっていた。
家畜に触れた後に
手を洗う習慣があった。
スターニン夫妻は、この健康状態のいい家族がとっていた例外的な行動を地域全体に広めることによって、健康状態の改善に成功することになりました。
健康状態を改善させる方法として、ベトナム以外の他の地域で行われた成功例を参考するのではなく、その地域の一部の家族がとっていた良い逸脱行動を参考にした改善方法を優先したわけです。
他の成功例が、自らの問題解決に役立つかは未知数
東京・渋谷のハンズには、階段1段1段に消費カロリーが記載されています。
これは、お客さんにエレベーターよりも階段の利用を促進することで、エレベーターの待ち時間問題を解消させるために一役買っています。
しかし、同じようにエレベーターの待ち時間が長いとクレームが殺到している高層ホテルにとって、ハンズが試みた問題解決はほとんど役に立ちません。
階段に消費カロリーを記したところで、高層ホテルではそれが10階、20階の階段昇りのモチベーションにはならないからです。
ベストプラクティスでは、外部の成功例を導入することで問題解決を図るものですが、高層ホテルにとってはハンズの成功例はまるで意味をなさない外部の成功例というわけです。
ではここで、アメリカのカリスマ経営者ラッセル・エイコフの著書「問題解決のアート」を参考にした逸話をご紹介します。
ある高層ホテルでは、エレベーターの待ち時間に関する苦情が多発していました。しかしなぜか、10階のお客さんからは1件もクレームがありません。
支配人が調べてみると、10階のエレベーターホールにだけ大きな鏡が存在していました。
お客さんは各々エレベーターを待つ間、身だしなみを整えたりすることで待ち時間を過ごし、時間の経過にイライラすることはなかったためです。
支配人は全フロアのエレベーターホールに鏡を設置することを命じ、エレベーター待ち時間に関するクレームは解消されました。めでたしめでたし。
まさに問題解決法は内部に存在する。このエピソードもポジティブ・デビアンスの考え方にとても近いものがあります。
ポジティブ・デビアンスのメリット
外部の成功例ではなく、内部で上手くやっている成功者をマネすることは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
みんなに適用しやすい
同じ環境下だからこそ、そこに存在する成功者のやり方を受け入れやすいという点があります。逆に言うと、外部の成功例はなかなか導入するのが難しく、環境的・心理的にも受け入れにくいものです。
コストがかからない
既に同じ環境で上手くやれている成功者がいるということが、今の環境のまま問題解決ができるということを示しています。エレベーターを追加で導入する等の新たな設備投資、労力を費やす必要がありません。
創意工夫が芽生える
同じ環境下で上手くやっている仲間に習い、人々の問題解決への工夫が生まれます。自ら気付き、当事者たち自身が持続的に実践できる問題解決法だからこそ、現実的な知恵として周囲に広く伝わっていきます。
ポジティブ・デビアンスは、社会課題解決から企業の組織文化変革など、様々な領域で注目されている考え方です。
あなたの周りにもきっといる「ちょっと上手くやっている人」の工夫を見つけ出すところから始めてみましょう。
(参考文献)
ジェリー・スターニン、モニーク・スターニン、リチャード・パスカル著「POSITIVE DEVIANCE 学習する組織に進化する問題解決アプローチ」東洋経済新報社(2021)https://amzn.to/41mObZ7
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